本当に遠い場所はどこか、時間で描く地図「時間地図」
地図は物理的な距離を基準に描かれるものだ。地図は移動する際に用いることもある。一般には最もこの使い方が多い。だが実際にはどのような道路が通っていて、その道路の制限速度や混み具合、そこを通る公共交通機関に乗車できる位置、本数、その速さによって移動は制限されるものであるから物理的な距離で近いからと言って費用は別にして時間的には遠い、ということは少なからず多いだろう。それを日本の社会問題として取り上げることを目的に「時間地図」というアイデアがデザイナーの杉浦康平によってもたらされた。
ここでは時間地図を単純な平均と標準偏差を求めてそれをNetworkXで表現する。
手順
- 名古屋駅を出発点に三河安城駅、豊橋駅、新横浜駅、品川駅、東京駅のJRの時刻表を新幹線、在来線を含めて2021年4月1日12:00-12:59を10分刻みのタイミングで移動する仮定(12:00,12:10,12:20のように)で取得する。例えば12:40に名古屋駅にいたなら何分でその駅までたどり着くのかというように計算する。そしてその最短時間を集計する。
- 各タイミングの移動時間の平均、分散、標準偏差を求める
- NetworkXでその平均時間と標準偏差を反映させたグラフを作成して可視化する。各駅を点、点の座標を時間の平均と標準偏差で設定する。そしてその距離を求める。
結果
図1等距離な場合の図
図2移動時間を反映させた図
図3 図2においての距離を計算した結果
図4かかった時間のデータ
以上のような結果が出てきた。
もっと時間上は県内の移動の方が遠いと予想していたがすべての駅を新幹線が通っている駅として設定したのでそのような結果とはならなかった。直線距離で考えた場合にその距離に正比例しているわけではないので、「思ったよりは近い」という感覚になるのではないだろうか。在来線しか通っていないところであれば東京よりも同じ県内の方が遠いということも十分にあり得る、かもしれない。
時間によって状況が変わるものに関してはその時間に応じて変化するので時間全体の平均をとるような方法では大きく実際とは異なるという状況がある。先程作成した地図にも大きく言えることだ。ほかにも欠陥があるが一番には時間を限定して統計を取って検証しているという点である。ある時間を切り取ってさらにその時間をかなり荒く切り取ってデータを作っている。時間を基準にデータを切り取ろうとした場合厳密さを考えると時間は無限に細かく切ることができる。目的に応じていその切り取り方を設定しなければならない。考える対象となる時間が終電から始発の時間であるならば全くもって意味を持たない検証だ。
このように平均的に物事をみることは場合によっては正しくない。その解決法の一つが状況を細かく設定して、その状況ごとの平均から物事をみるという方法がある。
時間に着目した地図においての取り組みにその方法を用いたものがある。自動車による移動で交通量データに基づく到着時間を予測するものがあるが、その予測を改善するものである。時間類似度という概念を適用するというものだ。交通量のデータは24時間のうちに一定のパターンがあり、24時間で再び同じパターンを繰り返すという性質に注目するというものだ。例えば渋滞は時間帯によっておこるタイミングが決まるというような性質である。これに着目し、一日を288に分割する。5分刻みで24時間を分割し、現在の時間から適用する時間のデータを選ぶ関数を導入するという方法である。この手法により従来の予測の手法より予測の誤差に改善が見られた。
データに関してどのように見るかということの重要性が示された例である。目的に応じて適用するデータを変更することが有効だった例だ。
しかし、この研究では場所によっては予測が上手くいっていないところもある。平均的な誤差においては有効であるが誤差が既存の手法と比べて改善が見られなかった、悪くなった場合もある。うまくいっている場合には誤差の平均と標準偏差ともに小さい傾向がある。しかし、うまくいってない場合誤差の平均や標準偏差に相関がみられないふるまいをしている。
この研究ではデータを制限することによりデータ数が少なくなってしまうという現象が起きているとも考えられる。適用するデータを限定するということはデータ数が分割しても問題ないほどに多く、時間帯に応じたデータが均一でなければならない。過学習が起きた結果、うまくいった場合はかなりうまくいくが上手くいかない場合はとことんうまくいかないというような現象が起きているという仮説もたつ。
データの扱い方は難しい。
参考文献
白井宏昌「地図の概念を覆した「時間地図」」https://www.kajima.co.jp/news/digest/dec_2015/multimodal_view/index-j.html(2022.04.24最終閲覧)
理系リアルタイム「Pythonパッケージ『NetworkX』を使ってみる」https://atsblog.org/python-networkx-how-to-use/(2022.04.24最終閲覧)
小野田烈(他)(2011)『感知器交通量データに基づく空間地図の構築と経路探索への応用』情報処理学会、2011-ITS-44巻、12号、1-8pp https://ipsj.ixsq.nii.ac.jp/ej/?action=repository_uri&item_id=72938&file_id=1&file_no=1(2022.04.24最終閲覧)
動かしたスクリプトと結果